税務処理とは? ~法人保険の計上方法~

法人保険で節税をお考えの経営者・保険担当者の皆様におかれては、税務処理についてお悩みの方も多くいらっしゃるかと思います。

法人保険の税務処理は、保険の契約形態や種類によって複雑に変化するため、保険資料をみても正直理解しづらいですよね。

この記事では、法人保険につい徹底的に調べ尽くした筆者が、必ず押さえておきたいポイントだけまとめました。

また、最後に保険タイプ別にメリット・デメリットもご紹介いたします。
「できることなら専門家に任せてしまいたい」というのが本音ですが、加入前にご自身でも「税務の基本」を押さえておきましょう。

法人向けの保険とは?

既にご存知の方もいらっしゃる方も多いとは思いますが、まずは「法人保険」とは何かについて少しおさらいをしておきましょう。

法人保険とは、法人が契約者となり、加入する法人向けの保険。

加入目的によって「経営者・役員」や「従業員」の死亡保障に重点を置いた種類や、怪我や病気、がんに備える種類がある。

この記事をお読みいただいている皆様は、法人保険が何かということについて既にご存じかと思いますが、もう一度定義をおさらいしました。

税務上の計上方法


税務上、払い込み時の保険料は損金計上資産計上かの2種類。

保険の種類と保険金受取人の組み合わせによって税務上の処理方法が異なります。

下記、表をご覧ください。

保険の種類 保険受取人(法人) 保険受取人
(役員または従業員・従業員の遺族)
貯蓄性ありの保険
(養老保険・終身保険
・個人年金保険等)
資産計上
(保険料積立金)
損金算入
(給与・報酬)
貯蓄性なしの保険
(定期保険・医療保険等)
損金算入
(保険料)
損金算入
(福利厚生)

表からわかるように、保険受取人が法人の場合、貯蓄性のある保険(満期保険金や解約返戻金があるタイプ)は資産計上、貯蓄性のない保険(掛け捨てタイプ)は損金計上されます。

一方、保険金受取人が経営者・役員・従業員または従業員の遺族の場合は、保険種類に関わらず損金計上されます。

また、計上される際の科目は、貯蓄性のある保険の場合は「給与・報酬」、貯蓄性のない保険の場合は「福利厚生費」となるので覚えておきましょう。

それでは、損金計上とは?資産計上とは?どんな種類の保険があるのか具体的にみていきましょう。

損金計上とは?


法人保険における損金計上とは、支払った保険料を税務上、「損金」として計上する税務処理。

損金として計上することで、節税のメリットがあります。
ではなぜ損金として計上することが節税になるでしょうか?

損金は会社の「費用の一部」として益金(売上)から控除することができます。

よって、企業としては課税対象となる所得(利益)を圧縮することで、法人税を減らすことが可能です。

損金計上できる法人保険の種類には下記のようなものがあります。

  • 増定期保険
  • 長期平準定期保険
  • 医療保険
  • がん保険
  • 法人損害保険

※損金算入できる割合は保険商品や契約形態により3タイプ(全額損金・1/2損金・1/3損金)。
損金保険について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。←リンク貼る

資産計上とは?


一方、資産計上とは支払った保険料を損金ではなく「費用(経費)」として計上する税務処理。

支払った保険料は「保険積立金」という科目で計上されます。

法人保険料を払い込んだ時点では、帳簿上のお金は出ていきますが、満期保険金や解約返戻金がある法人保険の場合、費用ではなく資産とみなされます。

資産計上するメリットは、「賃貸借上の資産を増やすことで、法人価値を高められること」。
帳簿外に資産があることで、企業としての信用度が上がり、銀行などから融資を受ける際に有利になります。

資産計上できる法人保険には、下記のような種類があります。

  • 終身保険
  • 養老保険
  • 年金保険

法人保険の税務処理の流れ

ここまでで、法人保険の税務上の処理は損金計上と資産計上の2種類あることが、お分かりいただけたかと思います。

法人保険では、保険料払い込み時(入口)と、保険金や解約返戻金受け取り時(出口)の両方のタイミングで税務処理が必要となります。

「節税対策を期待して法人保険に加入したが、解約返戻金受取り時に課税され、結局法人税の繰延をしただけになってしまった」というケースがあります。

このようなことにならないよう、法人保険の契約から解約までの税務処理の流れを一貫して理解しておくことが重要です。

下記では、「1/2損金逓増保険」の契約を例に、税務処理方法の例をご紹介します。

「保険料の払い込み時」と「解約返戻金受け取り時」では、どのような税務処理になるのか一緒に確認していきましょう。

<契約例> 契約年齢:54歳
性別:男性
保険期間:20年(74歳満了)
死亡保険金:5,000万円
保険料:5,084,150円/年
返戻率のピーク:10年後(96%(48,615,000円))
<契約形態>
契約者:法人
被保険者:経営者
保険金受取人:法人


保険料を支払った時


・1/2:その時点の保障を受けるための「支払保険料」(費用)
・1/2:将来の保障のため積み立てる「前払保険料」(資産)

借方 貸方
支払い保険料:2,542,075円
前払い保険料:2,542,075円
現金・預金:5,084,150円

解約返戻金を受け取った時


解約返戻金48,615,000円を受け取るとその分、現金・預金という資産が増加します。

ただし、解約返戻金の一部は、保険会社に保険料の1/2を「前払保険料」として預けて積み立ててきた合計25,420,750円の資産が姿を変えて戻ってくるものです。したがって、その分だけ前払保険料という資産がなくなります。

そして、解約返戻金から前払保険料を差し引いた23,194,250円は収益としてとらえます。これが税務上、雑収入として益金に計上されます。

借方 貸方
預金・現金:48,615,000円 前払保険料:25,420,円
雑収入:23,194,250円


税務処理については、保険商品や契約形態によって変化するので、納得するまで保険会社に確認してから加入されることをおすすめします。

法人保険の出口対策とは?


「法人保険で節税する際は出口対策が重要だ」という言葉をよく耳にされる方が多いのではないでしょうか。

出口対策とは「解約するタイミング」と「お金の使い道」のこと。

では出口対策にはどのような方法があるのでしょうか?

  • 役員の退職金として
  • 事業資金として(設備投資等)
  • 従業員へのボーナス・福利厚生費(社員旅行等)として
  • 保険に再加入する資金として

ざっと挙げただけでも上記のような出口対策が想定されます。

この中でも、最も一般的な方法が「役員の退職金」として活用する方法です。

退職時期は予測可能なため、法人保険を活用することで、必要な時期に合わせて計画的な退職金準備が可能です。

また、退職金は税務上、損金算入が可能なため、保険料払い込みから解約まで節税のメリットがあります。

保険タイプ別、損金計上方法

<契約形態>
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
死亡保険金受取:法人

全額損金定期保険


保険料支払い時:全額を損金計上(科目:定期保険料)

解約返戻金:配当金積立金の資産計上額を取り崩し、解約時受取額との差額を雑収入(雑損失)として益金(損金)に算入

メリット:節税効果が高い
デメリット:解約返戻金が少ない

逓増定期(全額損金タイプ)


保険料支払時:全額を損金計上(科目:定期保険料)

解約返戻金受取時:約返戻金を受け取った場合には、配当金積立金の資産計上額を取り崩し、解約時受取額との差額を雑収入(雑損失)として益金(損金)に算入

メリット:節税しながら効率よく資産形成が可能

デメリット:解約返戻率のピークの時期が短い

長期平準定期


保険料支払時:1/2損金計上、1/2資金計上

解約返戻金受取時:配当金積立金の資産計上額を取り崩し、解約時受取額との差額を雑収入(雑損失)として益金(損金)に算入

メリット:節税しながら効率よく資産形成が可能

デメリット:保険料払い込み期間が長い

医療定期保険


保険料支払時:全額を損金計上

メリット:節税効果が大きい

デメリット:解約返戻金や満期保険金がない

保険種類 保険損金処理 保険解約時
全損定期保険 全額損金 雑収入(雑損失)
逓増定期保険 全額損金 雑収入(雑損失)
長期平準定期保険 1/2損金(最初の6/10期間)
全額損金(残りの4/10期間)
雑収入(雑損失)
医療定期保険 全額損金 なし

まとめ


法人保険の税務処理は非常に複雑なため、加入前に保険内容をしっかりと確認することが重要。信頼のできる保険会社の担当者や税理士に相談し、会社の規模や目的に適した法人保険を選びましょう。

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